惑星と口笛ブックス

頬杖のヒュー風  多宇加世

 詩人という言葉は肩書きでも称号でもありません。詩人とは触れたものが詩になる者のことを言います。
 世界に誰かが多宇加世を置きました。多宇加世が触れたものは人がいままであまり見たことがないものになりました。

 詩集。奇妙な抒情、不可思議な語彙。29篇収録。表紙画は髙橋哲也。650円。

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  コーヒーをあげる

コーヒーの黒を暗黒だと思っている人へ。君はまだ幸せだ。バス運転手の手袋の白さを純白だと思っている人へ。君もとても幸せだ。おやすみ、瞼の裏に景色が見える人へ。君は刺青要らずだね。午前二時に台所へ立つ人へ。君には本当に水分が必要だよね、からからだ。夜空を飛ぶ白鳥が見える人へ。君は月の光自体を知らないよ。夜空の月を見る人へ。太陽が恋しい?こんにちは、朝を迎える人へ。朝に迎えられる人へ。明るい道も暗い道もあるよ。朝日が浴びられなくても。君は朝を知っている。行く人、帰る人の

  電話・そういえば(あとがきにかえて3)

まだ切らないで そういえば 町
君の知らない君のこと 伝えるんだった
夕方流れた町内放送
ぜんぶ君のことなんだって 伝えなきゃ
しってる? 君の髪の色は
じょわじょわじょわーの 災害試験放送
君の左足の小指は きんぽんきーんで 徘徊老人情報
かさかさ唇は たしか 上り通行止めは解除されました
そうやってぜんぶ君だったんだって
しってる? 町が染まったんだ 君に
まだ切らないで 君に
まだ切らないで そういえば
そういえば

 
多宇加世(たう・かよ)
第一詩集『さびていしょうるの喃語』(2021年)
一枚の本『雨語あめご』(2021年)
朝日新聞「あるきだす言葉たち『幼母』」(2022年)
kindle合同詩集『モンタージュ』(共著・牧野楠葉)(2022年)
パフォーマンスとのコラボ上演『⌘町合わせ⌘』(パフォーマンス・濵田明李、現代詩・多宇加世)(2022年)
第二詩集『町合わせ』(2022年刊行予定)


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