惑星と口笛ブックス

昔、火星のあった場所 北野勇作


 SFやファンタジーを中心に、独自の道を切り開く北野勇作の長編第一作にして、第四回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。待望の電子書籍化。

 地球化が進み、ほとんど地球と見分けがつかなくなった火星。入社三か月足らずの「ぼく」はある日、会社の上層部に呼びだされる。そして、ある任務を言い渡される。それは失踪した元同期の社員を排除する仕事だった。同期は会社を恨み「鬼」になったのだった。

 不確定性が渦巻く世界、頻出する古の地球の民譚のキャラクター、オニ、タヌキ、猿と蟹。世界の成立をめぐる謎。その謎を解き、世界を安定させようとするAI「小春」。混在する時間。「門」とは何か? まっすぐこの世界めがけて突き進んでくるものとは何か? 「ぼく」ははたして自分をそして世界を混沌から救うことができるのか。不確定の泥船のようなこの世界を。
 価格800円。


 プラットホームは、端から崩れはじめていた。速度を増しながら――。
 ぼくは、ドアの前に立って、ぼんやりそれをながめている。
 さっきからずっと、どしやぶりの雨のような音がぼくを包みこんでいた。いや、なにも映していないテレビの音なのかも知れない。
「なにしてるんだ、早く乗れよ」
 船が地面をこする音が大きくなってくる。ぼくには、それがこの世界のあげる悲鳴のようにも聞こえるのだ。
「この世界は、壊れてしまうのか。この場所は、もう」
 そんな、今となってはあたりまえのようなことをぼくはようやく口にする。
 ホームの屋根がたわみ、その負荷に耐えられない部分から崩れようとしていた。
「そうだよ。あの船を停止させるための制動媒体だ。この世界は、クッションのかわりに使われるのさ」
 高まるノイズのなかで、時計屋は叫んだ。


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