本作は2007年に日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞している。作者の久保寺健彦は同年に同賞を含め、三つの文芸の賞を受賞している。ほかのふたつは第一回ドラマ原作大賞選考委員特別 賞と、第一回パピルス新人賞である。破格のデビューと言えるだろう。
『ブラック・ジャック・キッド』は少年小説の紛れもない傑作である。おそらくこのジャンルの最高レベルにある作品だろう。そして驚くべきことに、日本ファンタジーノベル大賞の受賞作品には、少年小説の最高峰と呼べる作品がほかにも二作ある。銀林みのるの『鉄塔武蔵野線』と小田雅久仁の『増大派に告ぐ』である。同賞は少年小説の特異点と言うべきだろう。
学校、親、友人、孤などさまざまなことが少年を、あるいは翻弄し、あるいは力づける。そしてつねにともにあるブラック・ジャック。切なさとユーモア、恐怖と勇気、電子書籍で永遠の命を得た少年小説の傑作を、ぜひ手に入れてください。
原稿用紙換算約320枚。
価格800円。
抜粋
服装だけじゃなく、髪型も似せた。ブラック・ジャックの頭は、黒と白が入りまじった、片目をおおい隠す長髪だ。行きつけの床屋に本を持っていき、表紙のブラック・ジャックを示した。こういう風にして、と言ったら、店のおじさんは本を手にとり、難しい顔をした。
「どうなってんだこれ、長くてギザギザで。あ、うしろっかわもこんな跳ねてんのか。不思議な頭だなあ」
おじさんはおれに本を返し、真顔で言った。
「白髪にすんのは無理だよ」
「知ってる」
自分のことを棚にあげて、なに言ってんだ、とあきれた。そのままじゃ長さが足りなかったので、髪を伸ばしっぱなしにすることになり、カットしてもらったのは、その年の冬。全体にシャギーを入れ、片目をおおい隠してうしろ髪を跳ねさせ、ヘアリキッドで形を決めてヘアスプレーで固定すると、驚くほど見事なできばえだった。以後、おれはヘアリキッドとヘアスプレーを買い、練習を積んで、自分でこの髪型をつくれるようになった。三年生でヘアリキッドとヘアスプレーを常用していたのは、学校でおれしかいなかっただろう。
おれはさらに完璧を期し、ブラック・ジャックのトレードマークとも言うべき、顔の大きな傷跡を再現しようとした。拾ってきた先のとがったアルミ片で、額からあごにかけて斜めに引っかき傷をつけたのだ。夕食のとき母親に見つかり、こっぴどく叱られた。あせもの件をはじめ、ブラック・ジャックがらみのなにやかやで、おれは母親に三回叱られたが、これがその二回目だ。