雑誌小説の黄金時代というものがこれまでに何度かあった。『オールザイヤーラウンド』『ウィアードテールズ』『新青年』『ニューヨーカー』などが一世を風靡した時代は、おそらくその語で形容してもいいだろう。
そしてそれらの雑誌に掲載された人気作品は現在読んでもほとんどが面白く読める。生彩に富み、読者の気をそらさないリーダビリティーをそなえているのだ。
相川英輔はそうした小説を書いた作家を連想させる。時代を超えた雑誌小説家。
シングルカット第6作「ハミングバード」は一風変わったゴーストストーリーあるいは反ゴーストストーリーで、読後感も軽快である。読者を選ばない作家というものがいるとすれば、それは今後の相川英輔ではないだろうか。
本作はヒューゴー賞受賞作を送りだしている著名なウェブマガジン Strange Horizons のスペシャルエディション SOMEOVER に英訳が掲載された。訳は Toshiya Kamei 氏で、高い評価を得ている。言うまでもなく途轍もない快挙である。
400字詰め原稿用紙換算約37枚。
価格280円。
作品 抜粋
大江さんは判で押したような日々を送っている。六時に起きて、洗顔、朝食、新聞を読み、身支度を整える。背筋を伸ばしスーツ姿で何かの本を朗読した後、出勤する。休日は服装が私服に変わるだけで時間やリズムに変化はない。幽霊の割にずいぶん律儀なことだ。私のことは見えていないらしい。トイレや洗面所のドアを開けた際、出合い頭にぶつかりそうになることがあるけれど、互いの体は接触することなくすり抜けていく。驚くのはこちらばかりで、彼は一切ペースを崩さない。シャワーを浴びている最中、無造作に入って来られたときは悲鳴をあげた。
表紙は「魔法にかかった水車」(部分)フランツ・マルク作(1880-1916)