惑星と口笛ブックス

花を刺す  大木芙沙子

ノンシャラン、ノンジャンルの作家、風に乗って登場

 破滅派の著作、Kaguya Planet「かわいいハミー」、英語圏での紹介、話題の短文アンソロジー『kaze no tanbun 夕暮れの草の冠』寄稿などで好評を得ている大木芙沙子の第1短篇集です。ユーモアとおののきとストーリーテリングの世界にようこそ。
 日常のなかに不意に現れる「異なもの」、自分だけしかおぼえていないともだち、アステロイドベルト内を運行するバスというパストフューチャー的設定など、カラフルな味わいをぜひ御賞玩あれ。
 全11作。  400字詰原稿用紙換算約140枚。表紙イラスト・デザインは著者。価格600円。

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【抜粋】

金子さん

 スーパーナカヤマ竜子(たつのこ)店のパートタイマー募集に応募してきたのは二人で、一人は主婦の田中さん、もう一人は金星人の金子さんだった。「あ、金子ってもちろんこっちでの名前なんですけどね」金子さんは青い歯を見せながらカタカタ笑った。覚えやすいですよね、金星の子で金子、っていってもこれ夫の名字なんですけどね。
 そうですね、と履歴書を見ながら答える笹本は店長になって四年目、異星人の採用ははじめてのことだった。念のため、面接をしたその日のうちに本部へ連絡を入れた。
「そりゃ君、今どき異星人だからって不採用にするわけにいかないでしょう。その人あれでしょ、別に問題ないんでしょ? そしたらちゃんと採用しなきゃダメだよ。ダイバーシティだよ。ダイバーシティ」

安藤仁子料理教室(Love Is Blind)

 マシンの動作を調べるように歩く一人の男。その姿は彼女に我を忘れ(blinded)させた。ぴったりとした黒のTシャツとスパッツはほとんどスイムウエアのように彼の体に貼りつき、肉体の隆起や曲線をくっきりと浮かび上がらせている。ゆったりと、まるで海底を歩行するダイバーのように彼はマシンの間を練り歩く。時折、壁にとりつけられた大きな鏡で自らの姿を確認する。確認する度に、彼は自らの姿勢を少しだけ修正するような動きをする。納得のいく角度に筋骨が配置されたのを確認すると、ふたたび歩き出す。髪はサイドを短く刈られ、頭頂部のすこし長めに残された部分はしっかり撫でつけられており、彼の一連の動作の間も微動だにしない。何らかのスイッチの確認、鉄の棒やシートの汚れの確認、マシンの裏をのぞき込むときでさえ、まるで食品サンプルのスパゲッティーのごとくその髪は一本として揺れることはない。対照的に、彼の身体を分厚く包み込んだ筋肉は、彼がひとつひとつの動作をするたびに凹凸や陰影の強度を大げさなほどに変化させていく。
 なんという力強さ。なんという神秘。
 そして、と安藤仁子は思う。
 なんという美。
 安藤仁子は息を飲む、というかほとんどもう息もできないほど真剣に、食い入るように男の動きを見つめる。


【収録作】
金子さん
ともだち
よっちゃんはいい子
花を刺す
馬娘婚姻譚(※)
安藤仁子料理教室(Love Is Blind)
たばこ屋のばばあ
ミヤツ子日記
流星ピストル
恋するフランス・ギャル
朝食みたいなメニューが好き

※英訳が2021年1月に New World Writing に掲載。Toshiya Kamei訳。

【プロフィール】
大木芙沙子(おおき・ふさこ)
1988年生まれ、東京都出身。
2019年よりオンライン文芸誌「破滅派」にて駿瀬天馬のペンネームで作品を発表。2021年にはToshiya Kamei氏の英訳によって英語圏での作品発表を開始。「馬娘婚姻譚(英題: ”Neighs and Cries”)」が New World Writing に掲載されたのを皮切りに、Ghost Orchid Press のホラーアンソロジーシリーズや、Insignia Stories のアンソロジーに参加。国内では Kaguya Planet 短編SF小説執筆者に抜擢、「かわいいハミー」を発表。短文アンソロジー『kaze no tanbun 夕暮れの草の冠』(柏書房)に「親を掘る」を寄稿している。
 公式サイト Fusako Ohki.com


 


  

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