
惑星と口笛ブックス 刊行リスト


0058 宝石晶洞 吉美駿一郎
人の暗い熱、ノアールのかすかなエコー、大型作家はゆっくりと登場する
工場で働きながら演劇をつづけるアマチュア俳優の池内は、ある日、すこし変わった新人の信組(のぶくみ)からもうけ話を持ちかけられる。それはギウダという宝石にかんする話で、にわかには信じがたいものだった。しかし信組が実際に所有するギウダを目にし、そして手にいれた経緯を聞くうちに、池内の心のなかには抑えがたく興味が広がっていく。
敗れつづける者たちの眼路の果てで光るギウダ。鬱屈、欲望、人の翳り。
表紙イラストは路肩よわし、表紙デザインは浅野春美。400字詰め原稿用紙換算約120枚。



0055 NIIKEI文学賞2023 吉田棒一、中川マルカ、小松崎有美、緒真坂、岡田麻沙、岩倉曰、杉島佐遠、草野理恵子、酒井生、小林猫太、長谷川昭子 橋本敦、渋皮ヨロイ、東紀まゆか、斎藤倫子、鈴木林、カツテイク、石倉康司
2023年に開催されたにいがた経済新聞主催のNIIKEI文学賞の大賞および佳作を一冊にまとめました
控えめで、しかし自己の生死にかんして迷うことのなかった父親を、口癖を軸に描いた「しんでええよ」 小松崎有美から、誰も行ったことのない場所で小説を書きはじめた吉田棒一のスーパーノヴァ的不良もの「アッぽりけ」まで、多彩な作品が並ぶオムニバスになっています。

0054 猫の上で暮らす一族の話 冬乃くじ
ある日ふらりと小説の町にやってきたその人が口を開いたとき、小説はあらたな声で歌いだしました。冬乃くじ arrived
遊戯性の靴を履き、物語と小説のあいだを往還する作家、自身が一ジャンルである作家が、またひとり登場しました。
猫の身体を世界として各地方で生を営む生物たちの物語「猫の上で暮らす一族の話」は、きわめて独創的であり、小説的空想の祝祭のようです。
書物自身を視点としたこれも独創的な「ある書物が死ぬときに語ること」は、書物と生への哀惜にあふれています。
深い寂寥感をたたえたスモールタウンファンタジー「国破れて在りしもの」、稲垣足穂をモダナイズしたような短文「星降り」は儚く美しい。そしてこれまで存在しなかったナラティヴ、見ようによっては究極的に洒脱な「健康と対話」。
第4回ブンゲイファイトクラブの覇者、待望の第1短篇集。9篇収録。
表紙は倉田タカシ。

0053 万象3 小田雅久仁、関俊介、粕谷知世、西崎憲 日野俊太郎、南條竹則、冴崎伸、北野勇作、石野晶、大塚已愛、久保寺健彦、森青花、斉藤直子、三國青葉、柿村将彦、藤田雅矢、堀川アサコ、勝山海百合
常識を超えたギガンティックなファンタジーのアンソロジー万象シリーズ3作目
原稿用紙換算で千枚超、文字数にして四十万字弱、一般的な単行本で三冊以上の分量です。そしてそれがすべて書き下ろしです。アンソロジーですが、三百余枚の長篇 「サナギ世界」関俊介が丸ごと収録されています。もちろん前例のないことです。
参加者は十八名で作風は日本ファンタジーノベル大賞の傾向そのままに多岐にわたります。想像力への旅をお楽しみください。

0052 うか 岡田麻沙作品集 岡田麻沙
キラー・拓くこと
南インドの武術からはじまる岡田麻沙の世界への興味は言葉やデジタル技術へと広がり、ブンゲイファイトクラブ(BFC)の第4回では水際立った修辞力、分析力で決勝ジャッジとなった。
『うか 岡田麻沙作品集』は初の小説集。「うか」「等高線のシアン」「星座落ち」の3篇を収録。
3作から感じ取れるのは優れた書き手がもつべき胆力で、背景には暴力のエコーがかすかに響いている。岡田麻沙はおそらくなにかを殺すために文芸の世界にやってきた。
表紙イラストレーションとブックデザインはやすだゆみ。400字詰め原稿用紙換算約85枚。価格500円。


0050 電子書籍で会いましょう 甲田イルミ
電子書籍、いまが時だ
コピー&ペーストで本格的な文芸の電子書籍(ePub)が作成できる画期的なガイドブックです。ベースにするのは一太郎で簡単に作れる ePub ファイルで、完成まで特別な知識はいりません。
電子書籍は今後シェアが拡大すると予想されます。そして電子書籍は新しく個性的な小説や短詩型のバディーになる可能性を秘めています。これからやってくる時代は、スマートフォンに偏愛する文芸をインストールして友人のようにともに日々を送る時代です。
販売は〈文化あります〉からも販売します。付録が3ファイルつきますので、実質的に4冊の販売になります。価格は1200円。
甲田イルミは作家・翻訳家西崎憲の写真・電子書籍デザイン分野での名前です。

0049 本郷・二分間の絶景 本間文子
本郷、蒲田、それはほんとうにあなたの知っている街ですか?
『不思議の国のアリス』のなかでアリスは、絵のない本は本じゃないといった意味のことを言います。アリスのなかでは、文字はつまらない日常、絵は愉しい空想だったのでしょうか。
けれど大人になったわたしたちは、それがすこし単純な見方であることを知っています。
たとえば地誌というものには空想がつきものです。ぜひこの本のなかの本郷や蒲田を訪れてください。それは地続きのそれらとすこし違う場所かもしれません。
「本郷」「二分間の絶景」二作収録。原稿用紙換算約百枚。表紙は、たいがー・りー。580円。







0042 わたしが書きたい詩の言葉だけ 書けない 伊川佐保子
ついに日本の回文詩は真のプレイヤーを手に入れました。その名は伊川佐保子。
驚異の回文詩集。
限定性に宿る無限。
長い音に
行かせる
意味がない音
遠いな
神いる世界に
遠いかな
なかいおとにいかせるいみかないおととおいなかみいるせかいにとおいかな
からかいな
永久まで舞う雪
言えないからか
からかいなえいきゆうまてまうゆきいえないからか
過ぎる秘話
肉置き 断つ 悲しき世紀へ
無意味こそ
つくづく唾を吐き
へそ愛す 破水
遊べ
騎馬を発掘
靴底見 忌むべき遺跡
しなかった記憶に詫びるキス
すきるひわにくおきたつかなしきせいきへむいみこそつくつくつはをはきへそあいすはすいあそへきはをはつくつくつそこみいむへきいせきしなかつたきおくにわひるきす
『無意味の祝祭』(ミラン・クンデラ)へ
千代に八千代に利発な子
夏 針に予知 矢に予知
ちよにやちよにりはつなこなつはりによちやによち
表紙イラストは荒川龍太郎、表紙デザインは田中美沙妃。71作、600円。

0041 四月のストーブ 仲田有里
マヨネーズ頭の上に搾られてマヨネーズと一緒に生きる
第一歌集『マヨネーズ』収録のこの作品は、第五回歌葉新人賞で穂村弘などを驚かせた歌である。おそらくこの歌が驚きをもって受けいれたのは、作中の「感情」がそれまで短歌、あるいは文芸にさえ初出だったからだろう。そう、仲田有里は初出の歌人である。仲田有里は何も踏襲していない。あるいは仲田有里は仲田有里しか踏襲していない。
ある意味ではクリシェが主流である短歌にとって彼女の存在は事件とさえ言えるものである。そのことは仲田有里の歌のなかで軽々とノージェンダーや自意識フリーが達成されている事実、かすかに漂う存在論的な「こわさ」を見るだけで感得されるはずである。
収録80首。800円。『マヨネーズ』(思潮社)につぐ第二歌集。写真は著者。レーベル初の歌集でもある。
吐き出したい気持ち抑えて道に寝る 教会でする結婚式とお葬式
必要ないことには折れる心作る 夜明けの散歩 四月のストーブ
夏の夜にぴったりだった音楽が秋には秋にぴったりになる
お父さんにも才能がある 才能がこれから開花できますように
いくつかの言葉が手持ちの辞書になく載ってる文字を頼りに暮らす

0040
万象ふたたび
涼元悠一、北野勇作、冴崎伸、山之口洋、西條奈加、藤田雅矢、森青花、勝山海百合、粕谷知世、渡辺球、堀川アサコ、紫野貴李、久保寺健彦、日野俊太郎、西崎憲、三國青葉、石野晶、関俊介、斉藤直子、柿村将彦。
日本ファンタジーノベル大賞の大賞・優秀賞受賞者20名の全作書き下ろし超弩級アンソロジー。原稿用紙換算約940枚。
第1作『万象』についで日本のアンソロジー史上2位の枚数です。紙のアンソロジーではほぼ収録不可能である中篇4作の掲載を達成、21作いずれも入魂の傑作、21世紀のこの国の空想・幻想・綺想の広がりが一望できます。まさに空前絶後。
今回のテーマは「気象」「経済」「傷」「卓球台」です。
西條奈加の「温井博士の完璧な妻」は新直木賞受賞作家としての受賞後発表第1作です。
表紙は井村恭一。

0039
悪七夜 飯野文彦
飯野文彦書き下ろし。怪奇幻想を愛する読者のために書かれた仄暗い短篇集が到着いたしました。
幻想怪奇作家といってもさまざまです。そもそも幻想も怪奇も幅のある語であって、一口に語れるものでもなく、おそらく世界のどの言語でも書かれていて、そのすべてに歴史があります。しかし、通底する特徴もあって、それは優れた幻想怪奇作家は、基本的にはマイナーポエットであるということです。彼ら彼女らは個人性によって世界を解釈します。怪奇的事象、幻想的事象をもって。本書の飯野文彦のごとくに。
怪奇幻想の水先案内人、井之妖彦の連作をお届けいたします。あるときは旅行者、あるときは引きこもり、そしてあるときは幻灯世界の王子、本作でも皆様を不可思議な世界に御案内いたします。

0038
さざなみの国 勝山海百合
第23回日本ファンタジーノベル大賞、大賞受賞作。
同賞は第1回以来、中国あるいは中国的な世界を舞台にした優れた物語を輩出している。本作はそのなかの1作で、高い筆力、豊かな叙事性で、ファンタスティックチャイナの山脈のなかの高峰のひとつとなっている。
深山の懐にある湖の畔の村で育った少年さざなみの数奇な運命を中心に、今上帝の落とし子甘橘(かんきつ)、剣技に秀でた少女桑折(そうせつ)など、魅力的な登場人物たちによって描かれる運命の絵巻。
近年修辞家としての声価が高まる勝山海百合の優れたストーリーテリングを堪能してください。
表紙画は大谷津竜介。

0037
世界の果ての庭 西崎憲
第14回ファンタジーノベル大賞受賞作。 密やかな読者のための密やかな書物。
以下は円城塔氏の解説の抜粋である。
はじめてこの本を読み終えたとき、それまで体験したことのない読後感にひたりつつ、強く不満を感じたことを覚えている。その読後感の正体が全くわからなかったからである。思わず、存在しない解説を裏表紙との問に求めたほどに。
主人公と主人公の書く小説とその祖父、主人公の友人と、友人のすすめる小説と、友人の大伯父、主人公が研究していたイギリスの庭園と、友人の研究している日本近世思想。複雑に入り組む五十五の短篇が描き、織りなしていく網目模様は読む者の心を躍らせると同時に不安を呼び込む。「これは小説ではない」という人には、「明らかに小説でありそれ以外ではありえない、ただし庭ではあるかも知れない」と答えることができるが、「わからない」という人には何と答えるべきだろう。かつての自分は、この「わからない」に答えてくれる人を求めていた。


0035
コドモクロニクルⅠ
今井みどり、岩﨑元、遠藤紘史、 粕谷知世、川合大祐、北原尚彦、 桐谷麻ゆき、斎藤真理子、佐伯紺、 三月の水、しげる、清水さやか、 下楠昌哉、須藤岳史、照子、 中川マルカ、夏野雨、馳平啓樹、 林由紀子、Pippo、深緑野分、 舞狂小鬼、mayumiNightly、 宮内悠介、矢田真麻、吉野仁、 吉野隆、らっぱ亭
子供時代をテーマにした書き下ろしのエッセイアンソロジーです。 書き手は28名。
ワーズワースはかつて詩のなかで、子供はその人間の親だという意味のことを述べました。子供のころの経験、それはたしかに人の方向を決め、あるときは助け、あるときは挫きます。
本書に集められた歓び、驚異、孤独、不安、恐怖は、多くの人間が共有するものです。けれども不思議なことにそこにはなぜか明確な個人性もあります。見事に普遍なものと独自なものが共存しているように見えます。
本書は〈ナショナル・エッセイ・プロジェクト〉の一冊目です。叢書名はポール・オースターの出版企画「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」から借用したものです。

0034
シングルカット6
よぎりの船 小田雅久仁
本書は2018年に刊行された我が国史上最大のファンタジーアンソロジー『万象』のなかの1作です。『万象』をお持ちのかたは購入する必要はありません。万象』は『SFが 読みたい! 2020年版』の2019年国内ランキングで28位になりました。そのなかから創元SF文庫の年刊傑作選『おうむの夢と操り人形』に2作再録されていますが、編者のひとり大森望氏がもっとも収録したかったのはこの「よぎりの船」でした。しかし120枚という長さのためにその希望は叶えられませんでした。
名作『増大派に告ぐ』『本にだって雄と雌があります』で小説の世界に大きな足跡を刻んだ小田雅久仁の空前の幻視に驚嘆してください。



0031
倉阪鬼一郎散文詩集成 倉阪鬼一郎
あとがきにおいて倉阪鬼一郎は以下のように述べている。
最後に、「無人島へ持っていく作品を一冊だけ自作から選べ」と言われたら、私は迷わず小説ではなく本作を選びます(電子書籍なので端末ですが)。私のエッセンスはすべてこのなかに詰まっています。
本書はこれまで発表された三冊の私家版詩集『ふるふると顫えながら開く一冊の黒い本』『何も描かれない白い地図帳』『だれのものでもない赤い点鬼簿』を収録し、さらに書きおろしの詩集『世の初めから隠されていた三冊の画集』を加えた決定版といえるコレクションである。本書によって倉阪鬼一郎の詩におけるおそるべき達成を目の当たりにすることができる。


0029
対岸にいる男 ノリ・ケンゾウ
文体=スタイルこそが小説である。吉田健一、稲垣足穂、渡辺温、マルセル・ベアリュ、レオノーラ・カリントン、スティーヴン・ミルハウザー、かれらは質の違いこそあれ、いずれもみなスタイルにこだわりを見せた書き手たちである。そして、われわれの前にいま新たなスタイリストが現れた。ノリ・ケンゾウ、名前からしていっぷう変わったこの書き手が差しだすのは新たな文体である。オブジェのような文、そしてその文で呈示される奇妙なミニマリズム。
収録作品は三作。 すべてが意味に満たされ、けれどけっして意味では捉えがたい一人称の世界。新しい作家の登場である。

0028
ギャルソン・裏山月記 樋口芽ぐむ
少年時代の記憶をつづった「ごめんよシロー」は以下の文からはじまっている。
「悠一はどこにでもいる平凡な男性同性愛者である」
収録作中の同性愛が重要な要素になっている小説にかんして言えば、この文が樋口芽ぐむの特性をよく表しているかもしれない。
同性愛を扱った小説というものは一般に、あるときは同性愛の扱いが冷たすぎるし、あるときは熱すぎる。感情的なピークを中心に描きがちなのである。そしてそれはもちろん偏向を呼ぶ。
一方、樋口芽ぐむの同性愛小説は常温に近い。「どこにでもいる平凡な男性同性愛者」たちのための作品なのである。樋口芽ぐむはそうしたやりかたを採用したことによって、同性愛小説全体を少し前に進めるのではないだろうか。







0020
ハミングバード 相川英輔
相川英輔は『オールザイヤーラウンド』『ウィアードテールズ』『新青年』『ニューヨーカー』などの人気雑誌に寄稿した作家たちを連想させる。時代を超えた雑誌小説家たちを。
シングルカット第6作「ハミングバード」は一風変わったゴーストストーリーあるいは反ゴーストストーリーで、読後感も軽快である。
読者を選ばない作家というものがいるとすれば、それは今後の相川英輔ではないだろうか。
本作はヒューゴー賞受賞作を送りだしている著名なウェブマガジン Strange Horizons のスペシャルエディション SAMEOVER に英訳が掲載された。訳は Toshiya Kamei 氏で、高い評価を得ている。言うまでもなく桁外れの快挙である。


0017
あいつらにはジャズって呼ばせておけ ジーン・リース短篇集
西崎憲編 中島朋子他訳
カリブ海のドミニカ国生まれの白人女性作家ジーン・リースは、知名度においては、ヴァージニア・ウルフやキャサリン・マンスフィールドに一歩譲るかもしれないが、現代性ではあるいは凌ぐ存在である。
『ジェーン・エア』に登場する屋根裏の狂女バーサを主人公にした長篇『サルガッソーの広い海』は、ポストコロニアリズム、フェミニズム、インターテクスチュアリティーのどの観点からも興味深い。 さらに21世紀の小説を先取りするように現在形のみで書かれた「あいつらにはジャズって呼ばせておけ」。完璧なゴーストストーリー「心霊信奉者」。戦時中の極端に右傾化したイギリスで排斥される女を描いた「よそ者を探る」など、主題は多岐にわたる。 ジーン・リースはまぎれもなく現代作家である。
日本初の短篇集。原稿用紙換算約500枚。18作中15作初訳。解説(約45枚)書誌つき。














0002
ヒドゥン・オーサーズ Hidden Authors
相川英輔、大滝瓶太、大原鮎美、大前粟生、岡田幸生、小川楓子、斎藤見咲子、杉山モナミ、谷川由里子、谷 雄介、照子、西崎憲、野村日魚子、ノリ・ケンゾウ、伴名 練、深沢レナ、深堀 骨、みみやさきちがこ、若草のみち
日本の現代の詩、俳句、短歌、小説の新しい才能、隠れたオリジネイター、不当に看過された書き手の作品を集めたアンソロジーです。
どこにも属さないノ-ウェーヴの書き手たちの驚異の世界。
このおそるべき自由さにぜひ触れてみてください。
本作収録の短篇西崎憲「スターマン」はハワイ大学のウェブマガジン Hawaii Pacific Review に掲載されました。英訳は Toshiya Kamei氏。朗読チャンネル Tall Tale TV で朗読も聴けます。



