電子書籍

0005 コロニアルタイム 大滝瓶太

海外文学の手法を自在に使いこなす現代文学のスピードスター


 数学と音楽と人工知能、イデアと妄想のノンジャンルの作家の第一短篇集です。4篇収録。それぞれ独立していますが、連作あるいは観念のクロニクルとしても読めます。
 コロニアルタイム──時への植民、謎めいた時間、語られることのない時間、それをいま語ろう。もう近いのだから。

400詰原稿用紙換算約170枚。600円。

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【収録作紹介】

「騎士たちの可能なすべての沈黙

」 

 任意の位置にチェスのナイトを置いて、すべてのマスを一度だけ通って盤面
を旅する。それがナイトツアーという数学のふるい問題であることをしったのはずっとあとになってのことで、その名前を父から教えてもらったわけではなかった。名づける名づけないに関わらずその問題はかならず存在していたし、もっといえばぼくらがナイトに触れなくてもナイトは盤面を旅していて、それはひとしれずはじまり、あらかじめ終わっていた。

 異貌の数学者岡崎忠邦、父と子をつなぐチェス、数学のなかのとてつもない孤独。舞台は20世紀中頃から後期。 





「ソナタ・ルナティカ Op.69

」

「あなたの音楽からは永遠のさびしさをかんじる」

「さびしさ?」

 カニーノはききかえした。

「そう、さびしさ」ポンセはつづけた。「ピアノ独奏曲にしろ、あなたの楽曲のハーモニーは各声部の無理解によってかたちづくられています。そしてそれは素朴な構成であるからこそひとつの音楽としてかろうじて成り立っているのです」



 世にも退屈な楽曲「ソナタ・ルナティカ Op.69」を巡る逸話あるいは非逸話。詳細に語られることによって不能性に近づく物語。舞台となる時代は20世紀前半。





「演算信仰

」

 それはあらゆる他者の、あらゆる場所の、あらゆる時代の思考を重ね合わせるという行為に一致した。鮫島はオラクル理論について完全に理解するに至った。すべての可能な過去と未来が目の前に広がり、七月の終わり、書類をすべて読み解いた。

 2020年、東京オリンピック開会式で自爆テロが発生する。死傷者は1000人をこえた。犯人は鮫島康人。鮫島をその行為に導いたオラクル理論とは何か。21世紀初頭の数学的エピソード。


「
コロニアルタイム」 

 この時間がとおい未来に占領されたと昨夜からつけっぱなしのテレビがいったかたわらで、きのう、河原でひろった左手はまだふかいねむりから目覚めていなかった。



 世界は不可知の集合体である。若い女「わたし」の口から語られる愛玩動物のような「左手」、謎めいた「セルビア」、時間と意味はどこに向かうのか。最後の一行ははたして何を示すのか。


【大滝瓶太プロフィール】

「大滝瓶太」はフリーライターである「まちゃひこ」が主宰する創作プロジェクトであり、創作や海外文学の翻訳をブログや電子書籍で公開している。 
主宰者を含めた詳細はブログ「カプリスのかたちをしたアラベスク」参照。

カプリスのかたちをしたアラベスク
http://www.waka-macha.com/entry/2012/05/24/044344




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