
驚嘆の伊川佐保子、驚嘆の回文詩
回文詩はあらゆる詩のなかでおそらくもっとも制約の多い詩型です。漢詩や俳句の比ではありません。そしてそれだけ制約の多いものなので、できた作品も限定された狭いもの、融通のきかないものになると思いますでしょうか。
いやいや反対です。
人が作る詩は「作者」という限定から飛び立つことはひじょうに困難です。けれど回文詩は制約の多さゆえに詩人にとっての最後のくびきである「個人性」を脱ぎ捨てることが容易になります。
詩にはある種、限定性に宿る性質があるのかもしれません。
そして本書においてはさらに無限が回文詩に宿ったのかもしれません。本の回文詩はいま真の回文詩プレイヤーを手に入れました。その名は伊川佐保子。驚嘆してください。
表紙イラストは荒川龍太郎、表紙デザインは田中美沙妃。71作、600円。
■作品抜粋
長い音に 行かせる 意味がない音 遠いな 神いる世界に 遠いかな
なかいおとにいかせるいみかないおととおいなかみいるせかいにとおいかな
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からかいな 永久まで舞う雪 言えないからか
からかいなえいきゆうまてまうゆきいえないからか
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過ぎる秘話 肉置き 断つ 悲しき世紀へ 無意味こそ つくづく唾を吐き へそ愛す 破水 遊べ 騎馬を発掘 靴底見 忌むべき遺跡 しなかった記憶に詫びるキス すきるひわにくおきたつかなしきせいきへむいみこそつくつくつはをはきへそあいすはすいあそへきはをはつくつくつそこみいむへきいせきしなかつたきおくにわひるきす
『無意味の祝祭』(ミラン・クンデラ)へ
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千代に八千代に利発な子 夏 針に予知 矢に予知
ちよにやちよにりはつなこなつはりによちやによち
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