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0020 ハミングバード  相川英輔

作品の力のみでで世界デビューを達成した驚異の作家


 雑誌小説の黄金時代というものがこれまでに何度かあった。『オールザイヤーラウンド』『ウィアードテールズ』『新青年』『ニューヨーカー』などが一世を風靡した時代は、おそらくその語で形容してもいいだろう。
 そしてそれらの雑誌に掲載された人気作品は現在読んでも、ほとんどが面白く読める。生彩さに富み、人の気をそらさないリーダビリティーをそなえているのだ。
 相川英輔はそうした小説を書いた作家を連想させる。時代を超えた雑誌小説家。
 シングルカット第6作「ハミングバード」は一風変わったゴーストストーリーあるいは反ゴーストストーリーで、読後感も軽快である。複数の言語に翻訳されている。
 読者を選ばない作家というものがいるとすれば、それは今後の相川英輔ではないだろうか。280円。

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【抜粋】

 大江さんは判で押したような日々を送っている。六時に起きて、洗顔、朝食、新聞を読み、身支度を整える。背筋を伸ばしスーツ姿で何かの本を朗読した後、出勤する。休日は服装が私服に変わるだけで時間やリズムに変化はない。幽霊の割にずいぶん律儀なことだ。私のことは見えていないらしい。トイレや洗面所のドアを開けた際、出合い頭にぶつかりそうになることがあるけれど、互いの体は接触することなくすり抜けていく。驚くのはこちらばかりで、彼は一切ペースを崩さない。シャワーを浴びている最中、無造作に入って来られたときは悲鳴をあげた。

 400字詰め原稿用紙換算約37枚。

【プロフィール】
 相川英輔(あいかわ・えいすけ)
『文芸ムック たべるのがおそい』Vol. 3 に「エスケイプ」掲載。短篇集に『ハイキング』(惑星と口笛ブックス、)『雲を離れた月』(書肆侃侃房)

※シングルカットはコーヒー一杯の価格で読める短篇をリリースするシリーズです。

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