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0010 ねこ  川崎徹

人も立ちいることを許された鳥獣戯画


 各界に独創に満ちた足跡を残してきた川崎徹は、小説においても独創の書き手である。
「ねこ」は、地域猫に餌をやる男の日常を淡々と描いた短篇で、そのなかで猫や鴉は時として口をきき、死せる母は穏やかに首を吊った男について語る。
 静謐な祝祭のような日常、人も立ちいることを許された鳥獣戯画。
 四百字詰め原稿用紙換算約三十枚。シングルカットシリーズ第三作。

※〈シングルカット〉は作家が電子書籍オリジナルの短篇を、音楽の一曲に見立ててリリースするシリーズです。

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抜粋

 まだ陽はのぼらない。東の空が赤みをおびてくる。赤と黄色と紫、三色が層をなしてと思う間もなく巨大な陽の玉がせりあがってくる。ぶよぶよ輪郭が震えてぶーんと鈍い音が聞こえるようだ。太陽が全貌をあらわし夜があける。木立の奥の奥、草むらの草と草のすき間にまで朝の光が斜めに射し込む。樹木もベンチもブランコもごみ箱もわたしも、すべてがあるべきところにある。いつもの朝と変わらぬ光景である。猫たちはふくれた腹を晒して横になる。子猫は親の胸に顔を埋め目を閉じる。親は顎が外れんばかりの大きなあくびをひとつ。長老と呼ばれる黒猫はわたしの膝にのって過去を語った。
 「テレビの前で母親の乳房に吸いついていたのを憶えている。いちばん古い記憶だ。

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