電子書籍

0007 水から水まで 北野勇作


シングルカット第2弾
幽冥の北野勇作

 北野勇作は日本のSFを代表する作家の一人であり、短篇の名手です。最初から独自の道を歩いてきた作家でもありますが、この作品は、どこか夏目漱石の「夢十夜」や内田百閒の「冥途」の系統を繋ごうとするようなものにも見えます。そうです、北野勇作は今後は日本文学もついでに前に進めようとしているのです。
「水」「曲」「穴」「釜」「波」「蛇」「星」「石」「水」九篇の掌篇が織りなす仄暗く静かな世界へようこそ。
 惑星と口笛ブックスへの最初の書き下ろしである本書はシングルカットの二作目でもあります。
 表紙画像デザインは四畳半書房のサイトウユカ。400詰原稿用紙換算約55枚。

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「星」抜粋

 かあんっ。
 ふいにそんな音が聞こえた。
 反射的に身を起こし、音が聞こえた方向を見る。
 かあん、かあん、かあん、かあん。
 さっきの音から少し間をおいて、同じ音が連続して鳴り始める。
 なんだ、踏み切りの警報機か、となぜかほっとしてそのあと、なぜほっとしたのだろう、と思う。
 列車の音が近づいてきているのがわかる。それにしても、こんな時刻に列車が来るのか。まあ貨物とか夜行とか、そんなのもあるか。そこまで考えたところで、音だけだということに気がつく。
 警報機は鳴っているが、赤い光の点滅はない。そして、さっきの街灯の白い光もないことに気がつく。ある時刻が過ぎると、街灯は消されてしまうのだろうか。しかし、通過する列車がまだあるのなら、消したりはしないのでは。
 あれこれ考えている間も、がたごんがたごんと列車が通過していく音は聞こえ続け、そのままかたとこん、かたとこん、と遠ざかっていく。
 いちど音が止まってから、かあん、かあん、とゆっくりと二回鳴って、それで沈黙した。
 遠くに小さく町の灯が見える。




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