惑星と口笛ブックス

ねこ 川崎徹


 各界に独創に満ちた足跡を残してきた川崎徹は、小説においても独創の書き手である。2010年には野間文芸新人賞の候補にもなっている。
「ねこ」は、地域猫に餌をやる男の日常を淡々と描いた短篇で、作中で猫や鴉は時として口をきき、死せる母は穏やかに首を吊った男について語る。
 静謐な祝祭のような日常、人も立ちいることを許された鳥獣戯画。

 まだ陽はのぼらない。東の空が赤みをおびてくる。赤と黄色と紫、三色が層をなしてと思う間もなく巨大な陽の玉 がせりあがってくる。ぶよぶよ輪郭が震えてぶーんと鈍い音が聞こえるようだ。太陽が全貌をあらわし夜があける。木立の奥の奥、草むらの草と草のすき間にまで朝の光が斜めに射し込む。樹木もベンチもブランコもごみ箱もわたしも、すべてがあるべきところにある。いつもの朝と変わらぬ 光景である。猫たちはふくれた腹を晒して横になる。子猫は親の胸に顔を埋め目を閉じる。親は顎が外れんばかりの大きなあくびをひとつ。長老と呼ばれる黒猫はわたしの膝にのって過去を語った。
「テレビの前で母親の乳房に吸いついていたのを憶えている。いちばん古い記憶だ。――

 400字詰め原稿用紙換算約30枚。シングルカットシリーズ第3作。
 価格280円。

  
アマゾン
楽天

関連記事

  1. ハミングバード 相川英輔
  2. 雨の国、夜の国 北野勇作
  3. 昔、火星のあった場所 北野勇作
  4. 温泉と城壁 北野勇作
  5. あいつらにはジャズって呼ばせておけ ジーン・リース短篇集 西崎憲…
  6. 万象ふたたび 涼元悠一 北野勇作 冴崎伸 山之口洋 西條奈加 藤…
  7. 幻想秘湯巡り 南條竹則
  8. コロニアルタイム 大滝瓶太
PAGE TOP