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0037 世界の果ての庭  西崎憲


この本の名は? シー、そのことは話してはいけないのです

 第14回ファンタジーノベル大賞受賞作。
 あまたの断章、あまたの物語。
 消失点をかすめる永遠の影。
 密やかな読者のための密やかな書物。

 創元SF文庫版の円城塔の解説を再録。
 400字詰め原稿用紙換算約265枚。

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【作品抜粋】

 柱と階段があちらこちらに点在していた。灰暗い闇はほんとうにどこまでもつづいていた。地平線などはもちろん見えなかった。ただ天井と床が彼方で溶けあっていた。
 トンネルの口だけが明るく光っている。これはいったい如何なる光なのだろうか。
 トンネルから洩れてくる光は、蛍の光にも似ていたし、星の光にも似ていた。
 あのなかは寒く恐ろしいのか、と漠然と思っていると、微かに地鳴りの響きのようなものが足元から伝わってきた、その響きはしだいに大きくなっていった。不安と期待のうちにおれは待った。間違いない。列車がやってきたのだ。
 轟音はしだいに大きくなり、プラットホームが揺れだした。おれは息を止めてトンネルの入り口を凝視めた。

【解説抜粋】

 はじめてこの本を読み終えたとき、それまで体験したことのない読後感にひたりつつ、強く不満を感じたことを覚えている。その読後感の正体が全くわからなかったからである。思わず、存在しない解説を裏表紙との問に求めたほどに。
 主人公と主人公の書く小説とその祖父、主人公の友人と、友人のすすめる小説と、友人の大伯父、主人公が研究していたイギリスの庭園と、友人の研究している日本近世思想。複雑に入り組む五十五の短篇が描き、織りなしていく網目模様は読む者の心を躍らせると同時に不安を呼び込む。「これは小説ではない」という人には、「明らかに小説でありそれ以外ではありえない、ただし庭ではあるかも知れない」と答えることができるが、「わからない」という人には何と答えるべきだろう。かつての自分は、この「わからない」に答えてくれる人を求めていた。

――円城塔

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