文芸ブロードキャスト

Toshiya Kameiさんに驚く(+執筆・翻訳抜粋リスト) 西崎憲


 2020年にはほんとうにさまざまなことがあった。世界的な疫病の流行もあったし、珍しく小説を2冊出した年でもあった。それらはもちろん自分にとって大きなニュースであったが、それに劣らず大きな驚きになったのが、アメリカ在住の作家・翻訳者 Toshiya Kamei さんである。

 Toshiya Kameiさんから突然メールがあったのは、2019年の12月だった。メールは簡潔なもので、わたしの短篇「スターマン」を訳した、売りこみたいという希望が書かれていた。自分の作品の翻訳はロシア語に訳された掌篇1作しかなかったので、もちろん喜んで承諾した。しかし、その後、そのことはあっさりと念頭を去った。この種のことは、あてにならないものだ、期待してはならない、と思ったのだ。もちろんそう思ったのはそれまでの経験ゆえだった。世のなかはそう甘いものではない、何度希望がむなしく潰えたか……。

 しかし、それからまもなく、ウェブの雑誌に「スターマン」の掲載が決まったというメールが届いた。嬉しさよりも驚きのほうが先だった。こんなにあっさりうまくいくとはという感情のほうが大きかったのだ。しかし、メールに記されたURLをクリックすると、そこには間違いなく作品があり、Starman という文字が見えた。わたしの「スターマン」は Starman になったのだ。怒濤のように喜びがあふれた。
 そしてそれだけではない、Kameiさんは「スターマン」を朗読サイトにも売りこんでくれた。わたしは自分の作品が英語で朗読されるという、それまで想像すらしたことのない経験を味わうことになった。長生きはするものだとわたしは思った。


 その後も、驚きの連続である。わたしは個人的にブンゲイファイトクラブという文芸イベントの企画進行を務めているのだが、そのイベントに提出されたものもKameiさんは精力的に目を通して、訳出し、売りこんでくれて、しかも続々と採用された。いや、驚くまいことか。こういったことは誰がどう考えても普通ではない。こんなことができる人間がいるなんて誰も思わなかったはずだ。
 Kameiさんの話では、採用が数篇のところに何百件も応募があったり、やはり英語で書かれた作品が優遇されるらしい。しかしそういったことを物ともせずにこの結果である。結局2020年の1年で20作くらいの翻訳作品、創作をネットの媒体に発表しているのではないだろうか。すでにわたしのなかでToshiya Kameiさんは「偉人」である。いや、それより一種の文学的モンスターであると言ったほうが至当かもしれない。

 Toshiya Kameiさんの活躍はあまりに速度が速すぎて、日本の出版界やSF界にはまだ十分に知られていない。『小説すばる』にエッセイが掲載されたくらいである。どれほどのことを成し遂げているかはゆっくりとしか知られていかないだろう。そしてもちろん本番はこれからだ。この爆発的とも言える日本の小説の紹介はインディーだからできたことでもある。そしてそこには商業出版とインディーの奇妙な転倒がある。その転倒は今後の展開にどう影響していくのだろうか。そしてそのことがSF、ファンタジーという分野に起こっている意味は奈辺にあるだろうか。
 
 ご自身の作品も今後たくさん現れるようで、目利きであること、熱意、筆力、英語でもスペイン語でも書けることを考えると、書き手としての未来も前途洋々であるように見える。
 個人的には、そしてオルタナキュレーション惑星と口笛、BFCと、複数の件で、今後もToshiya Kameiさんにはお世話になるはずである。氏はおそらく我々につねに驚きを提供してくれるだろう。

Toshiya Kamei 翻訳作品抜粋

惑星と口笛ブックス

2021

  • “A Small Green Bottle”「スモールビューティフルグリーンボトル」by Ken Nishizaki (西崎憲) — Eunoia Review, July 2021 (read).
  • “Neighs and Cries”「馬娘婚姻譚」by Fusako Ohki (大木芙沙子) — New World Writing, January 4, 2021 (read).

2020

  • “Golconda”「ゴルコンダ」by Naoko Saito (斉藤直子) — Sci-Fi Lampoon, October 6, 2020 (buy).
  • “Hummingbird”「ハミングバード」by Eisuke Aikwa (相川英輔) — Samovar, July 27, 2020 (read).
    • Audio version at PodCastle, TBA
    • Audio version, TBA
  • “Starman”「スターマン」by Ken Nishizaki (西崎憲) — Hawaii Pacific Review, May 14, 2020 (read).
    • Audio version at Tall Tale TV, August 14, 2020, narrated by Chris Herron (listen).

ブンゲイファイトクラブBFCオープンマイク

2021

  • “The Differentiation of Life”「読書と人生の微分法」by Binta Ohtaki (大滝瓶太) — NonBinary Review, March 1, 2021 (buy).
  • “A Summer Garden or the Last Will” 「夏の庭、あるいは遺言」 by Yukari Kousaka (紅坂紫) — The Crypt, January 29, 2021 (read).
  • “Mission”「ミッション」by Ayumi Nakamura (なかむらあゆみ) — The Ekphrastic Review, January 17, 2021 (read).
  • “A Family of Plants”「植物家族」by Satomi Hara (原里実) — World Literature Today, January 14, 2021 (read).

2020

  • “Red Bell Peppers”「赤いパプリカ」by Ayumi Nakamura (なかむらあゆみ) — Déraciné Magazine, December 10, 2020 (read).
  • “Pure Gold”「純金」by Umiyuri Katsuyama (勝山海百合) — The Fortnightly Review, December 8, 2020 (read).

創作

2021

  • “Underground Secrets” — Collective Realms, March 2021 (read).
  • “Regalo del dragón” — Nagari Magazine, March 1, 2021 (read).
    • Audio version, narrated by Estrella del Valle (listen).
  • “Peach Girl” — Utopia Science Fiction, February 28, 2021 (buy).
    • Audio version at Tall Tale TV, narrated by Chris Herron, TBA
    • Japanese translation (「ピーチ・ガール」) by Umiyuri Katsuyama『かぐやプラネット』, March 27, 2021
  • “A Husband’s Return,” “The Empty Mirror,” and “Going Home” — Hundred Word Horror: Home, February 3, 2021 (buy).
    • Japanese translation (「家路」)by Umiyuri Katsuyama『鳥語花香録』, February 7, 2020 (read).
  • “Soon” — Trembling With Fear, January 24, 2021 (read).
    • Japanese translation (「まもなく」)by Umiyuri Katsuyama『鳥語花香録』, January 27, 2020 (read).
  • “Hacia el cielo,” “Un nuevo comienzo,” and “El precio de la codicia” — Nagari Magazine, January 1, 2021 (read).
    • Japanese translation (「新たなはじまり」)by Ken Nishizaki 『オルタナキュレーション惑星と口笛』, January 20, 2020 (read).

2020

  • “Like the Wind” — A Story In 100 Words, December 23, 2020 (read).
    • Japanese translation (「風さながら」) by Ken Nishizaki 『BFCオープンマイク』, December 24, 2020 (read).
  • “Skyward” — New World Writing, December 13, 2020 (read).

Coming Soon:

  • “The Price of Greed” etc. — Mythical Creatures of Asia, April 2021 (buy).
  • “Army of Darkness” etc. — Mythical Beings of Asia, TBA
  • “Dragon’s Gift” TBA — (read)
  • “A New Beginning” — Trembling With Fear, 2021 (read).
  • “A Flurry of Ashes” — Bending Genres, April 2021 (read).
  • “A Dragon in Flight” — The Crypt, April 2021 (read).
  • “Sudden Storm” — Trembling With Fear, March 21, 2021 (read).

Toshiya Kamei HP

Short Fiction

惑星と口笛ブックス

ブンゲイファイトクラブ

ほんのひとさじ

参考

VG+ (バゴプラ)

バゴプラ Toshiya Kamei検索


(2021/3/13/記)

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